約 1,076,918 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/867.html
「ミスタ・コルベール! やり直しとか言いませんよね? 平民でもかまわないんですよね?」 「平民でもかまわない。というかだね、呼び出されたものが何であろうと契約しなければならない。それはいいんだが……」 コルベール先生が見た先は、それはもう酷いことになっていた。 なぜか使い魔が二人いる。しかも片方は全裸、おっぱいは普通。 ところどころ黒くなった草原がぶすぶすとくすぶっている。何を使えばこんなことになるんだか。 「これはどういうことだね? どうして火の手が上がったんだ? なぜ二人の使い魔がいる?」 ミキタカ! 出番! 出番! 言い訳ゴー! 「これはあくまでも推測なのですが。ルイズさんがサモン・サーヴァントを唱えたことにより、宇宙エネルギーが暴走、結果一面に照射され、真なるカオスが発生し、吸収しきれなかったダークマナを逃がすために大地がブラーニング現象を起こしたのでしょう」 ミキタカ……あんたって人は……敵に回すと鬱陶しくて味方にしても鬱陶しい……。 「……もういい。君の推測はともかくとして、ミス・ヴァリエールなら多少の珍事が起きてもおかしくはないだろうからね」 先生、あなたけっこう酷いです。 「火はいいとして、なぜ使い魔が二人もいるんだ? ミス・ヴァリエールでもこれはありえない」 「それは私もサモン・サーヴァントを唱えたからですよコルベール先生」 「なんだって……?」 「ルイズさんが唱えた瞬間、私の中に閃くものがあったんです。これは今やるしかないと思いました」 「君という男は……」 顔の色が青くなって、瞬く間もなく朱に染め上がった。 今のコルベール先生が何を思っているかは五つの子供にだって分かるだろう。 「あれほど言っただろう! 春の使い魔召喚は神聖なものだと!」 「分かります。とても神聖なんですよね。だからこそ失敗してはいけないと考えたのです」 朱色がどす黒い赤になった。 「ミスタ・グラモン! 君は! 君という男は! いつもいつも! 本当に! 本当に! ああああ! よく! よく見たまえ私のこの頭! こうなった八割は君のせいだ!」 「ハハハ、謙遜することはありませんよ。私は何もしていません。全て先生がやったことです」 うわあ……涼しい顔して言うなぁミキタカ。 コルベール先生はがっくりと肩を落とした。顔色はどす黒い赤から紙のような白になり、わたしもう見てられない。 「ミスタ・グラモン……君は使い魔の重要性を理解しているのかね?」 「とてもよく理解しています」 ミキタカが一言口に出すたび空気が重くなるような……気のせいよね。 「そうか……分かった」 コルベール先生は足元がふらついていた。視線も定まっていない。あーあ、先生ってのも大変ねえ。 わたしは先生になった将来の自分を想像してみた。生徒がミキタカで……あ、死にたくなったわ。 「だ、大丈夫ですか……ミスタ・コルベール?」 「……大丈夫に決まっているだろうミス・ヴァリエール」 大丈夫って、大丈夫に見えませんよ? 大丈夫と半死人が同義語なら大丈夫なのかもしれないけど。 「早く……契約したまえ……」 あ、そうだ。契約契約。コルベール先生なんかにかまってる場合じゃない。使い魔にするための契約しなくちゃ。 ……って、あれ。どっちと契約すればいいの? 老人はパイプをふかしている。強がりや見せ掛けじゃなく、芯からの余裕を感じた。 羽織っていた毛皮の上着を全裸の女性にかけてあげる優しさもある。うん、なかなか期待できそうね。 そしてその女性なんだけど。 「何やってんだボゲどもォーッ! あたしに近寄るんじゃあねェーッ!」 うわ、ガラ悪っ。怖っ。肩にかけられた老人の上着を地面へたたきつけた。ひどっ。 「なんだオメーらその格好ッ!? どこだここはッ!? あたしの服をどこへやったッ!?」 気持ちは分かるけどさ、少し落ち着こうよ。 「太陽が止まってるッ! なんでだよ!? グルグル回ってたはずなのにッ!?」 え、何これミキタカ系の人? もう何ていうかどうしようもないね。 老人は叩きつけられた上着を拾い、泥をはらってもう一度羽織りなおした。 親切を仇で返されても怒らない泰然自若とした佇まいは、そこでふらついている髪の薄い人よりよっぽど先生みたいだ。 持っていたパイプを軽く上下させた。挨拶をしているらしい。 「よろしーく……」 なあんか妙なアクセントね。田舎の出身なのかな。 「若き魔術師が二人おられるようじゃが……わしの主になるのはどちらかな?」 お、こっちは話が早い。やっぱり使い魔ってのはこうあるべきよね。 ちょっとまとめてみよう。 女の方はおっぱいがある。でも乱暴で口が悪い。主人を主人とも思っていないみたいだ。 爺の方はおっぱいがない。でも親切で物腰が落ち着いている。使い魔として召喚された自覚もある。 微妙なところだけど、これは爺さんに軍配が上がるんじゃないだろうか。 うん。そうだ。ここは実際的にいくべきだよね。 「人の話聞いてんのかァー! なんで男同士のキスシーン見せ付けられなきゃなんねえんだッ!」 えっ? えっ? えっ? って……あれ? ミ……ミキタカァァァァァァ! ぐっぐああああ、してやられた! 完全にしてやられた! 人の使い魔横取りすんなこの妄想一直線! くっそお、爺さんはあたしがもらうはずだったのに! しかもなんか卑猥! この二人のキスシーンなんだかエロチックよ! 「爺と野郎のキスなんか誰が喜ぶんだボゲェッ! ファックがしたいなら家ン中でやれッ!」 いや、これはこれでアリだと思うけどな。熊さんと美少年の応用的なものだと考えればいけるって。 「あたしをなめてんのか! ああ!? オメーらがその気ならこっちにも考えがあるからな!」 男同士の口づけは和むべき場面だと思うけどな。彼女ってばより一層攻撃的になってるみたい。 これ、放っておいたら手がつけられなくなるかもしれないわね。 全裸で凄む自分を客観的に見ることさえできないみたいだし。 よし、本格的に暴れだす前にさっさと契約して従わせよう。抜き足、差し足で忍び寄って……。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 よしよし、噛まずに言えた。自分の名前部分が一番難しいポイントってのもどうかと思うわ。 「五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 自分の背後で何やらくっちゃべってるヤツがいたら振り向くわよね。 で、そこに……キスをする! よし、大成功! あまりいやらしくない感じでやれたはず。舌入れちゃダメなんだよね? 「何しやがんだテメェェェェェェ!」 何ってナニよ。うふふ、初めてだったのかしら。たぶんわたしの方が年下なんだろうけど、リードしてあげちゃったわ。 「熱っ、熱っ、てか痛ェェェエエエエ!」 うわ、本当に痛そう。左手に浮かび上がったルーンが痛そうで痛そうで。 裸で蹲ってるのが見ていてかわいそうで、わたしのマントをかけてあげた。主人としての心遣いってところね。 爺さんの上着と同じことをしたらそれなりの罰があるからそのつもりで。 向こうを見ると、どうやらミキタカの方も滞りなく――ここへ至るまでの道のりは除くとして――儀式終えたらしい。 サモンができないって言ってたからコントラクトも失敗するんじゃないかってちょっとだけ期待してたのに。 爺さんの方もルーンが輝いているけど、それでも平然とパイプをふかしていた。やっぱりあっちの方がいいなあ。 「殺す……殺してやる……!」 うわ、まだ物騒なこと呟いてるよ。これ完全に貧乏くじ引かされちゃったな。ミキタカ、後で覚えてなさいよ。 女が顔を上げ、わたしと目が合う。その瞳に浮かんだ害意に鼻白んだ。だから怖いんだってばあんた。 ちょこんと跳ねた後ろ髪はかわいいけど、目の下のこれ……彫り物? よりによってなんでまた顔に。 「か……」 か? 「カァァァワィィィィィィィィィィ! お人形さんみたい!」 この女、いったい何を言っているの? 私がかわいいって……そ、そんな当然のこと言ったって何も出ないんだからね。 さっきまで確実にあったはずの害意はどこへやら、なんだか瞳が輝いている。 「髪の毛ふわふわっ! とってもキュートよキュウウウット!」 ちょ、ちょっと、思いっきり抱き締めないで! ああっ、髪に指を絡めないで! どんな感情のふり幅よあんた!? ミキタカ! 爺さん! あんたら見てないで止めなさい! 「……それではこれで儀式終了。皆、戻るぞ」 コ、コルベール先生、飛んでいかないで! 助けて! だ、誰かァァァ! 神ならぬ私は知る由も無かった。 この使い魔召喚の儀式によって、コルベール先生の中にある考えが芽生えたことを。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/407.html
「今の魔法は何だ?答えろ」 そう質問した瞬間ルイズが凄まじい目でプロシュートを睨み付ける だが生憎プロシュートにとっては相手が貴族だろうと平民だろうと、例え王女であろうと対応は変わらない。 「ディティクト(探知)マジック…どこに耳が、目が光っているかわかりませんからね。驚かせてしまったようで申し訳ありませんでした」 「姫殿下、いけません。姫殿下に乱暴を働いた者に頭を下げるなどと…」 アンリエッタがプロシュートに頭を下げるがそれを見たルイズは必死だ。 もっとも当のプロシュートは涼しい顔でそれを受け流す。 「ああ!ルイズ!ルイズ・フランソワーズ!そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい!あなたとわたくしはお友達!お友達じゃないの!」 「もったいないお言葉でございます。姫殿下」 ルイズが珍しく緊張した声で言ったが、プロシュートはスデに興味なさそーに椅子に座っている。 「やめて!ここには枢機卿も、母上も、あの友達面をしてよってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ!ああ、もう、わたくしには心を許せる おともだちはいないのかしら。昔馴染みの懐かしいルイズ・フランソワーズ、あなたにまで、そんなよそよそしい態度を取られたら、わたくし死んでしまうわ!」 「姫殿下…」 ルイズが顔を上げ心底嬉しそうな笑顔でアンリエッタを見付めた。 以下、延々と昔話に華が咲く 「クリーム菓子を取り合ってケンカしてルイズが常に勝っていた」だの「ドレスの奪い合いでアンリエッタのボディブローがルイズに決まって気絶した」だの プロシュートにとってはどうでもいい事なので適当に聞き流していた。 「…知り合いか?」 「姫様がご幼少のみぎり、恐れ多くも遊び相手を務めさせていただいたのよ」 また話がアンリエッタの言葉尻に影が含まれている事に気付いた。 「どうかされたのですか姫様…?」 「…結婚するのよ。わたくし」 「……おめでとうございます」 普通なら祝うであろう王女の結婚報告だがその沈んだ声を察っするに政略結婚という事がルイズにも理解できた。 そこにアンリエッタが宇宙最強の台詞である「それがどうした」が頭に浮かんで暇そーに椅子に座ってるプロシュートに気付く。 「あら、ごめんなさい。もしかして、お邪魔だったかしら」 「お邪魔?どうして?」 「だって、そこの彼、あなたの恋人なのでしょう?身を挺してあなたを守ってくれたんですもの」 「はい?恋人?あの生き物が?」 その言葉にプロシュートが一瞬反応する。 もしルイズがプロシュート精神の色を知ることができたなら黒に少しだけ赤が混じった事に気付いたであろうが当然それに気付くよしもない。 「姫さま!あれはただの使い魔です!恋人だなんて冗談じゃありません!」 ルイズが首が捩れんばかりにそれを否定する。 「使い魔…?人にしか見えませんが…」 「人です。姫様」 「そうよね。はぁ、ルイズ・フランソワーズ、あなたって昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずね」 「好きであれを使い魔にしたわけじゃありません」 憮然としてルイズが返すが、アンリエッタが何回目かのため息を吐いた。 ルイズがその原因を問いただそうとするが思い直したかのようにアンリエッタが話を打ち切ろうとした。 だが、ルイズはそれを振り切るようにしてさらに迫る。 「いけません!昔はなんでも話し合ったじゃございませんか!わたしをお友達と呼んでくださったのは姫様です。そのお友達に、悩みを話せないのですか…?」 その言葉にアンリエッタが決心したかのように頷いき口を開いた。 「今から話すことは、誰にも話してはなりません」 アンリエッタがプロシュートの方をちらっと見てきた。 「オレの任務は護衛だからな…どんな事であれ話は聞かせてもらう」 「メイジにとって使い魔は一心同体。席を外す理由などありません」 そのまま沈んだ調子で語りだす。 「わたくしは、ゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったのですが……」 「あんな野蛮な成り上がりどもの国に!?」 ハルケギニアの地理に全く詳しくないプロシュートがルイズに問う。 「ゲルマニアってのは何だ?」 「トリステインの北東にある国でお金さえ積めば平民でも貴族になる事ができる野蛮な国よ!」 「そうよ。でも仕方がないの。成り上がりの国とはいえ同盟を結ぶためなのですから…」 アンリエッタがルイズにハルケギニアの政治情勢を説明する。 アルビオンで反乱が起き王室が倒れそうであり、このまま行けば侵攻されるのはトリステインであり それに対抗するための同盟をアルビオンの貴族派が望んでおらずそれを妨げる材料を探している事を だがその説明を聞いているプロシュートの精神はさらに朱に染まっていっている。 大体の事情が飲み込めたのかルイズが顔を蒼白にして問う。 「で、もしかして、姫さまの婚姻をさまたげるような材料が…?」 「おお、始祖ブリミルよ……、この不幸な姫をお許しください……」 アンリエッタが顔を両手で覆い床に崩れ落ちた。ルイズは半分混乱しているようだがプロシュートは冷めた目でそれを見ている。 ルイズもそれにつられたのか興奮したようすでそれを問いただす。 「……わたくしが以前したためた一通の手紙なのです」 要は、アンリエッタが王家のウェールズ皇太子とやらいに宛てた手紙をその皇太子が持っており 皇太子が捕らえられ、その手紙が『ヤバイゲルマニアにIN!』すれば同盟の話が消し飛びトリステイン一国でアルビオンとドンパチやらねばならないという事だ。 「では、姫さま、わたしに頼みたいことというのは……」 「つまり奪還任務ってわけか…?」 心の奥底に沸き立つ赤い物を隠しながらプロシュートがアンリエッタにそう問いかける。 「無理よ!無理よルイズ!わたくしったら、なんてことでしょう!混乱しているんだわ! 考えてみれば、貴族と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて 危険なこと、頼めるわけがありませんわ!」 「何をおっしゃいます!たとえ地獄の釜の中だろうが、竜のアギトの中だろうが、姫さまの御為とあらば、 何処なりと向かいますわ!姫さまとトリステインの危機を、このラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ、見過ごすわけには参りません!」 ルイズは膝を突き恭しく頭を下げる。 「このわたくしの力になってくれるというの?ルイズ・フランソワーズ!懐かしいお友達!」 熱血少年漫画の如く友情を確認しあう二人だが、プロシュートの方は冷静だ。 「アルビオンに赴きウェールズ皇太子を捜し、手紙を取り戻してくればよいのですね?姫様」 「ええ、そのとおりです。ですが礼儀知らずのあの人たちはかわいそうな王様を捕まえて縛り首にしようとしています! わたくしは思います。この世の全ての人々が、あの愚かな反乱行為を赦してもわたくしと始祖ブリミルは赦しませんわ。ええ、赦しませんとも!」 プロシュート達自身が組織を裏切った。いわば組織に対しての『反乱』である。 国と組織の違いとは言え、やっている事は同じだ。 その事をこの世間知らずもいいとこな姫様に『愚かな行為』と言われ『赦さない』と言われた。 それが致命だった。アンリエッタがそういい終えた瞬間プロシュートの精神が全て真紅に染まった。 だが、いい具合に二人の世界に突入しているルイズとアンリエッタは気付いていない。 「一命にかけても。急ぎなのですか?」 「アルビオンの貴族たちは王党派を国の端にまで追いつめています。敗戦も時間の問題でしょう」 「早速明朝にでも出立いたします!」 そうルイズが返し明朝アルビオンに向かう事になったがアンリエッタがプロシュートの方を見つめた。 「頼もしい使い魔さん。私の大事なお友達をこれからもよろしくお願いしますね」 そう言いながら左手を差し出してきた。 だがプロシュートは射抜くような視線をそれに向けただけだ。 「いけません!姫様!そんな、使い魔にお手をを許すなんて!」 「いいのですよ。この方はわたくしのために働いてくださるのです。忠誠には、報いるところがなければなりません」 プロシュートが無言で近付く。 だが二人は気付いていない。プロシュートがそのような事をする為に近付いたのではないという事にッ!! そのままアンリエッタが差し出した左手の前に立ち… 思いっきりッ!その左手をッ!!『踏みつけたッ!!!』 ルイズはその瞬間何が起きたのか理解できなかった。 いや、理解したくなかった。 大切なお友達と言ったばかりのアンリエッタの手を己の使い魔が踏みつけているのだからッ! 「な、なななな何をするだぁーーーーーーーッ!!」 どこぞの英国紳士が憑依したかのようにルイズが叫んだ。 「…ッあ…!」 左手を思いっきり踏まれているアンリエッタだが叫んでは誰かに気付かれるという事もあり声を出さずなんとか耐えていた。 「あんた…!姫様になんて事を…!こここ、この、この生ハ…」 それを言い終える前にプロシュートと目が合ったがそれを見たルイズの声が出なくなる。 目があった瞬間プロシュートの冷徹かつ明確な殺意を持った視線がルイズを刺し貫いていた。 ほぼ同時刻キュルケの部屋 「……なななな何をするだぁーーーーーーッ!!」 「五月蝿いわね…なに騒いでるのかしら…まさかルイズがダーリンを無理矢理…!?」 勘違いもいいとこだが恋は盲目らしく即座に着替えを済ませ隣のルイズの部屋に飛び込んだキュルケが見たものは―― 床にへたり込んだまま動けないでいるルイズと冷徹な目で立ち尽くすプロシュート、そして…手を思いっきり踏まれているアンリエッタがいた。 「ちょっと…これは一体どういう事…?」 一瞬(SMプレイッ!?)と思ったらしいがプロシュートの目を見たキュルケが後日こう語った。 「あ…あの時のダーリンの目…看守が処刑囚でも見るかのように冷たい残酷な目だったわ…『かわいそうだが明日の朝には首だけになってる運命なんだな』って感じの!」 ルイズがそれに押され黙ったのを見るとアンリエッタに向き直り静かに絶対零度まで冷え切った口調で話し始めた。 「テメーに何が分かる…?分かるのか?ええ?おい… 平民が金を積んで貴族に成り上がるのがそんなに野蛮か…?」 「テメーらみてーに生まれ付いての貴族ってのはいいだろうが… その貴族に雑草みてーに踏み付けられてる平民がなりふり構わず成り上がろうとして何が悪い? 成り上がるためにはそれ相応の事をしている…テメーらみたいに生まれた時から平民を支配して当然と思っている貴族共より余程マシってもんだ…」 「ここに召喚されてから感じた事だがテメーら貴族の中に平民と対等に付き合ったヤツがいんのか…? いねーだろうな…オレ自身、あのマンモーニを殺すまで平民の使い魔と呼ばれ貴族共から人間以下の扱いしか受けてなかったからな…オメーもそうだぜ?ルイズよォ~~」 「言うに事欠いて『反乱』が『愚かな行為』で『赦せない』だと? 分かるのか?テメーに…今まで組織に冷遇され『反乱』せざるをえなかったオレ達チームの心がッ! 命がけで任務を成しても何一つ信頼されず『シマ』すら与えられなかったオレ達の『栄光』を求めた『反乱』の何が赦せないだと?」 「アルビオンの貴族連中がどんな理由で反乱を起こしたのかは知らねぇ… だがテメーが言ってる事は踏みつけられた平民が貴族に対して反乱を起こしてもそれを『愚かな行為』だと言ってるのと同じなんだぜ…?」 自分達が命を賭けて起こした組織への反乱。それをこんな何も知らないようなヤツに否定されたと受け取った。 「テメー自身が撒いた種が原因で『不幸な姫』って言ってるのも気に入らねぇ…奪還任務を依頼するってのはいい… 上に立つものが直接やるわけにもいかねーしな…だがオメーはその任務で人が死ぬかもしれないって事を『覚悟』してんのか?」 「その責任を理解せずルイズやオレが死ぬって事を覚悟してねーんならテメー1人で行くんだな… 少なくともオレ達チームのリーダーはその『覚悟』を持って組織を離反したんだぜ…」 そう言い放ちアンリエッタの左手から足を離し部屋の外に出る前にルイズに言う。 「オメー自身が納得できたんならこの任務を受けろ。オレの任務はオメーの護衛だからな… だがそいつがその『覚悟』と『責任』をまだ理解できてねーなら受けるな」 プロシュートが部屋を出てからしばらくすると放心状態だったルイズとキュルケが手を押さえながら蹲っているアンリエッタに気付いた。 「……はッ!姫様!今すぐ治癒魔法!!」 「…構いません」 「ですが…!」 さっきまでとは違い、毅然とした態度でルイズの目をアンリエッタが見据え改めて奪還を依頼した。 「使い魔…いえ、彼の言うとおりです。わたくしはあなたの同情を買うかのようにこの事を頼んでしまいました。 ですが、今は違います。『覚悟』と『責任』を持ってルイズ…貴方に手紙の奪還を依頼します。」 「もちろんですわ…!姫様!」 「この傷は…あなたが無事に戻ってくるまで治さずにおきます」 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール&プロシュート兄貴―ザ・ニュー任務! ←To be continued 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/321.html
凶~運命の使い魔~第一岩 凶~運命の使い魔~第二岩 凶~運命の使い魔~第三岩 凶~運命の使い魔~第五岩
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/642.html
「ほら、朝だよ」 育郎がベッドの中で丸くなっているルイズを揺さぶる。 「うにゅ~もうちょっとー」 「もう登校してる人達もいるようだし、早く起きないと」 「むー」 仕方なくベッドから離れるルイズ 「そこに洗面器がおいてあるから、顔を洗って。制服はそこ」 「下着…そこのー、クローゼットのー、一番下の引き出しー」 「これだね、授業に必要な物は?」 「鞄に入ってる…」 「着替えはおわったね、はい鞄」 「うん」 「じゃあ、いってらっしゃい」 「いってきます…」 寝ぼけ眼をこすって部屋から出るルイズを見送ってすぐ、 「ってなんか違うでしょおおおおおおおおおおお!!!」 叫びながら部屋に戻るルイズを見て、育郎は (忘れ物でもしたのかな?) 等と呑気に考えた。 「貴方は使い魔なの!使用人じゃないの!そりゃ…似たような事させるつもりだけど」 「なんかあんまりにもナチュラルだったから素直に従っちゃったじゃない!?」 「いい!使い魔は主と共にいるって言ったでしょ! 授業中も一緒にいなきゃいけないってわかんない!?」 「というかあんた、朝ごはんどうするつもりだったのよ!?」 等と道すがら怒鳴られながら食堂に向かう。 育郎は粗末な食事、スープとパンニ切れをもって食堂をうろついていた。 ふとルイズの方を見ると、豪勢な食事を美味しそうに頬張っている。 自分の食事との差に何か釈然としないものを感じないではないが、なにせ本来『使い魔』 とやらは動物(あくまでこの世界のだが)が出てくるらしいので、仕方ないのかもしれない。 とはいえ床に置かれたそれをそのまま食べる気にはなれないので、どこか座れる場所がないか 探している最中なのである。そうしていると、ふと聞き覚えのある声が耳に入ってきた。 「こいつにハシバミ草のサラダを食わせてやりたいんですが、かまいませんね!」 「これ、本当に食わなきゃ駄目かのう?」 オスマン氏が目の前のサラダを見ながら、ミス・ロングビルに一縷の望みを込めて聞く。 「駄目です」 にべもなく断られる。 「しかしのう…」 「駄目です」 「まだなんも言っとらんのじゃが…」 しかたなく三千世界にその苦さが知れ渡るとうたわれたハシバミ草を眼の前に持っていく。 「ばあさんや、飯はまだかのう…」 ボケたフリをしてみた。 「眼の前の物しかありません」 駄目だった。 (こんなに怒らんでもええと思うんじゃが…それにしてもいつにもまして苦そうじゃのう) 頑張って一口食べた。 「こ、これでいいじゃろ…ミス・ロングビル…」 「あらあら、まだこんなにも残っているじゃありませんか、オールド・オスマン」 「………マジ?」 「マジです」 救いを求め周りを見回すが、目があった教職員は『自業自得』という目をしている。 (薄情な連中じゃ…おや、あれは?) 見ると今朝会った少年がこちらを見ている。 「おお、少年!」 今朝会った老人に手招きされたので、先生らしき人達が集まっている場所に近づく。 「おじいさん…その、今日はすいませんでした…」 「ほっほっほっ、かまわんかまわん」 「悪いのはオールド・オスマンですから、イクロー君は気になさらないで」 「今朝あったばかりじゃのに、ずいぶんと親しそうじゃのう… こりゃミス・ロングビルがミセス・ロングビルになる日も近いのかな?」 「おほほ、オールド・オスマンったら…そんな事言ってもうやむやにはしませんからね」 チッ、っと舌打ちするオスマン氏が、ふと育郎が持っているものに気付く。 「おお、そりゃ君の朝飯かね?ずいぶんと寂しい限りじゃな…」 「ええ、まあ…」 「そうじゃ!それだけじゃ足らんじゃろ?このサラダを食べてみないかね?」 「いいんですか?」 「オールド・オスマン!駄目よイクロー君、それは…お尻を触るんじゃぁない!」 オラオラを叩き込まれながらも「は、早く食うんじゃ!」とオスマン氏がせかす。 せっかくの好意(?)なのでサラダを食べようとすると、誰かが育郎のズボンを引っ張った。 「君は?」 見るとルイズと同じ格好の、だがさらに背の小さい、青い髪をした少女が立っていた。 「交換」 そう言って鳥のローストが盛り付けられた皿を差し出してくる。 「…ひょっとしてこれと?」 サラダを指差してみると、こくんと小さく頷く。 「いいのかい?」 「………」 もう一度頷く。 ローストチキンを食べながら、育郎は 「この世界の貴族は、意外にいい人達が多いのかもしれない…」 なんていうことを考えていた。 それだけ オールド・オスマン 当初の予定の3倍のハシバミ草を食わされリタイヤ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2172.html
――息が苦しい。 と、リキエルは思った。 またぞろパニックに陥ったのかといえばそうではない。顔色がいいとはいえず、冷や汗も少し出ているが、今のリキエルはどちらかといえば平静だった。 リキエルは瓦礫を拾う手を止め、今開いている右目を、息苦しさの理由へと向けた。 「……」 教卓のあった場所から離れた、比較的きれいなままの机で、ルイズが悄然と俯いている。 リキエルのいる場所からではその表情までは窺えなかったが、消沈した面持ちであろうことは、まあ予想がつく。 ――さっきからずっとあのままだからな。 教卓を爆破し、教室をひっちゃかめっちゃかにしたルイズはその罰として、魔法の使用を禁止された上での掃除を命じられた。窓拭きや箒がけのほか、窓ガラスを運ぶなどといったことだ。 「主の不始末は使い魔の不始末」 オレがやることになるんだろうな、とリキエルが思っていたとおり、ルイズは不機嫌にそれだけ言うと、足裏を床に叩きつけるようにして教室を出て行ってしまった。 リキエルはひねたような顔になりながらも、掃除用具を用意し、適当に瓦礫拾いから始めたのだが、意外なことに、それから程なくしてルイズは戻ってきた。身奇麗になっているところを見ると、着替えをしてきただけらしい。 しかし、かといって別段リキエルを手伝うでもなく、ルイズは目視できんばかりの濃い陰鬱をかもし出しながら、手近な椅子を引いて座り込み、もうそれきり動かないのだった。 髪の長きは七難隠す。などといい、実際に美人と呼ばれる女性は七難どころか、例え、腹の中に一物や二物の猛毒を溜め込んでいても、人前でさらすことはないものである。が、同じ美人でもルイズのように年端もいかぬ少女では、いささかその長さが足りないようだった。とりたてて人の心情に敏くもないリキエルにも、ルイズの気持ちが落ち込んでいることがよくわかった。 時たま不機嫌な空気を織り交ぜながら、陰鬱な雰囲気を撒き散らすルイズから視線を外し、リキエルはまた、飛び散った瓦礫を拾い集める作業に戻った。 こういった場合、慰めるなりなんなりするべきなのかもしれないが、何を言えばよいかリキエルにはわからない。半端な慰めは、却って神経を逆さに撫でるだけだろう。なにぶんルイズは、そうでなくともデリケェトな年頃である。迂闊に声をかけて逆鱗に触れることを考えると、リキエルにはそれがためらわれた。 かといって、捨て置くにはやはりこの空気は重い。沈黙が痛い。リキエルの胃袋の内壁の強さは、そこいらの人となんら変わらないのだ。 リキエルは気を紛らわすためと、状況打開を図るため、ルイズがこうなった理由から考えてみる。授業での『ちょっと失敗』発言の時ように、馬鹿にされて怒りを露にしても、終始不遜な態度は崩さなかったルイズが、ここまで沈み込む理由は何か。 ――あれか? 片づけを命じられたときの、魔法禁止で――の件である。魔法の使えないルイズへのこれは、リキエルにはたいそーな皮肉に聞こえた。ルイズもそう受け取ったのかもしれない。 しかし、それは違うような気もする。教室中から散々に馬鹿にされながらも言い返していたルイズの胆力を考えると、それが皮肉程度で動じるものかは、リキエルには甚だ疑問だった。 ただ、案外そうやって散々馬鹿にされたことが効いていたのかもしれず、皮肉は止めの一刺しだったのかもしれない。そして、それもまた違うのかもしれなかった。 詰まるところ、リキエルにはサッパリこんと見当がつかないのである。 リキエルは早々にさじを投げた。こんなことをするのは、心理学をお修めになったカウンセラー様に万事任せるに限る、というわけだ。それでなければ教師の仕事だ。友達の少なそうなルイズだが、相談事のできる気の置けない教師の一人くらいならいるだろう。 とかとか等等etc、適当なことを考えながら、あらかた瓦礫を片付けたリキエルは箒を手に取り、掃き掃除を始めた。息苦しさは、少し解消されていた。 「それ、貸しなさい。手伝ってあげるから」 「おおあっ!」 考え事をしていたのがまずかったか、背後から唐突に声をかけられたリキエルは驚きで頓狂な声を出した。ルイズは、ブスっとした顔でリキエルを睨み付ける。 「何よ。この私が、ご主人さまがラドグリアン湖のように広い心でもってわざわざ手伝いをしようっていうのに、その反応は。文句でもあるの」 「いや、そういうわけじゃあないんだが、なんというか、意外だったんでな。全部オレに押し付けるかと思ってたんだが」 「押し付けるって何よ! あんたが掃除するのは当然なの。むしろ自ら進んでやるべきだわ、あんたはわたしの使い魔なんだから!」 ルイズの言い様にリキエルは眉を顰めたが、気に留めないことにしようと思った。なんにせよ、手伝うというなら、そうしてもらって損はない。 ただ、気になることはもう一つあった。 「しかし……なら、どうして手伝いなんかする気に?」 「あんたに任せてたらいつ終わるかわからないもの。なんか鈍くさそうだし。牛みたいな服だから余計にね」 言いながら、ルイズはリキエルから箒を奪い取るなり背を向けて、細かいゴミを掃いていく。一貫性の無い掃き方で、掃き残しの塵が目立った。 ――く、く……くぉのッ! リキエルは苦虫エキスを三日分飲まされたかのような、苦りきった表情で固まっていた。 手際が良いとは自分でも思わないが、それほど悪くもないはずだ。朝の洗濯にしても、場所さえ分かっていれば朝食までには終わっていたのだ。多分恐らくそう思う。 そもそもが、リッチマン所有の別荘の使用人だったわけでもなんでもない人間に、日常生活に必要な技能以上の働きを求める時点で無理があるというものだ。 ――だってのに、顔洗えだの着替えさせろだの、そんなことまでオレの仕事だって? 自分でやれ自分でェ! ほったらかしで出て行くな? 朝起こせって? なんなら日の出を拝ませてやってもよかったんだぞッ! ええッ!? 挙句に鈍くさいと言うのか! 小一時間も重苦しい雰囲気ばら撒くだけ撒いて、口を開けばいきなりこの憎まれ口ッ! こんなガキを慰めようだとか無駄なことッ! 少しでも考えてたオレは馬鹿もいいところだったなアァァ――ァ! リキエルは思わず、こういったことをブチまけそうになったが、 「それにちょっとしたミスでも、失敗したのはわたしだわ」 キッパリと、しかし肩を落としながら言うルイズを見て、そんな気も不思議と失せた。 そう、ガキなのだ。異様にプライドが高くとも多少傲岸の気があっても、ルイズはまだまだ少女なのだ。むしろ喜怒哀楽が目に見える分、年不相応に子供っぽく思える。そんなルイズを怒鳴りつけるのも大人気ないと、リキエルは思ったのである。 勿論、そんなことを言えばどうなるかわかったものではない、という理性も働いている。 怒鳴ろうという気はもう霧散していた。それよりも、本人の口から出た失敗という言葉で、リキエルには先ほどの生徒達の叫び声が思い出された。 『魔法成功率ゼロ』『魔法を使えば爆発』『魔法が使えないゼロ』『学院辞めちまえ』 あの様子では毎日のように、いや、毎日言われ続けだろうか。だとすればなかなか酷い話で、もし自分であれば耐え切れるものかどうか自信がない。 ――いや……。 自分をその立場に置いて考えると、また思考が悪い方向へとどんどん流れそうになったので、リキエルは机を拭く雑巾を絞りながら、別のことを考えようと努めることにした。 ――魔法といえば。 昨晩の話し合いによれば、自分を呼び出した『サモン・サーヴァント』と、契約を行ったという『コントラクト・サーヴァント』も、やはり魔法であるらしい。先ほどの授業を聞くところによると、系統によらないものだそうで、コモン・マジックとか言っていただろうか。 なんにせよその二つの魔法、前者はともかくとして、直接自分に作用した『コントラクト・サーヴァント』である。こちらがもし失敗していたらと思うと、ゾッとしない話だった。魔法成功率が本当にゼロならば、コモン・マジックとやらを使っても、ルイズは爆発を起こすのだろう。 自分が先ほどの小石のように吹き飛ぶ光景を思い描いてみて、リキエルは身震いした。 これはこれで後ろ向きな考えである。 「失敗。そう、失敗なのよね」 リキエルが、自分の骨の破片がマリコルヌに突き刺さるところを――これまた卑屈な考えである――イメージしたあたりで、ルイズが手を止め、独り言のように言った。 その、小さいながらも重々しい声に、リキエルは一瞬強烈な薄ら寒さを感じて顔を上げた。先ほどまでの陰鬱とは一線を画す、思わずぞっとするほどに暗然とした面持ちになった少女がいる。 リキエルは目を瞬かせて、詰めた息を吐いた。 ――なんだ? 今の、夢遊病罹患者みたいに虚ろな声色に、遺書でもしたため始めそうなキツイ顔はァ。尋常じゃあなかったぞ。 見間違いとも思えなかった。既にもとの勝気な表情に戻っているが、一瞬だけ垣間見えた、暗さを突き詰めて、さらに濃縮したものを貼り付けたようなルイズの顔は、何かに憑かれているようでさえあった。 「……失敗が、どう――」 「失敗だって証明されたのよ。今までのは全部失敗。だけど、それがいいのよ。わたしは魔法が使えないわけじゃなかったッ。わたしの努力は無駄になってなかった!」 「あ? なんだ?」 「平民のあんたを召喚したのは失敗だけど、魔法の失敗じゃないってことよ!」 「……は~、なるほど」 なにをか自己解決したらしく、暗い雰囲気から一転、唐突にハイになったルイズを訝しく思いながら、リキエルは雑巾を絞ってぞんざいに相槌をうった。筋道がいまいち掴めないが、秋の空は変わりやすいのだと思い直した。 ただ、一抹の不安は、存外に強くリキエルの胸にこびりついた。 どうにも釈然としないリキエルを文字通り尻目にして、ルイズは箒をばさばさと振り回しながら、今度は何やら怒りの感情をむき出しにしている。 「今まで散々馬鹿にされたわッ! もうッ! 思い出すだに腹立たしいッ!」 顔が見えないのは先ほどと同じだが、表情が安易に予想できるのも変わらなかった。喜怒哀楽の間をせわしなく行き来するルイズは、客観的に言えば面白かったが、今はその怒りの矛先が自分に突きつけられぬよう、リキエルは内心恐々としながら、今度は相槌も省いて聞き流した。 ルイズは完全な躁状態に入ったようで、今何か言えば、リキエルは確実に何がしかの被害を被ることになるだろう。雇い主には逆らわないのが堅実な生き方、というのが今のリキエルの考えである。君子危うきに、とはよく言ったものだ。 「生まれてこの方、いっつもいっつもいっつもいっつもいっつもいっつもいっつもいっつもいっつもいっつもさっきも馬鹿にされてェッ! キィ――ッ!」 「……ッ」 と、緩慢な動きで机を拭いていたリキエルの耳に、またも唐突に、聞き流せない言葉が入った。怒りのあまり本気で「キィ――ッ!」と叫ぶ人間を、リキエルは初めて目の当たりにしたが、そのことについての感慨は何もない。 今、リキエルの意識は全く別の場所に、それこそルイズの怒りなどまるで意に介せない程度には離れている。 ――生まれてこの方って言ったのか? 今まで努力はむくわれず、ずっと馬鹿にされ続けてきたとそう言ったのか!? トリステイン魔法学院だったか、ここに入ってからじゃあなかったのか! そいつはッ! リキエルは、自分の顔が強張るのを感じた。いやに、変に、奇妙なほどに熱を持った汗が一粒、頬を伝って首に流れ落ちていくのがわかる。 ルイズは当然のごとくそんなリキエルの様子には気づいていない。昂ぶった気持ちを抑えるためなのか、幾度も幾度も同じ床を掃いているだけである。 「……」 リキエルは無意識に手を止めて、埃を落とした机のひとつを意味もなく凝視していた。 瞬きほどの間か、あるいは三分ほどかもしれない。ルイズが落ち着いた様子で掃き掃除をしているところを見れば、もっとだろうか。リキエルはそうして固まっていたのだが、気づけばルイズに問いかけていた。 「思ったことはないのか? ……諦めるとかよォ~」 言って後悔する。この話題こそ流すべきだろうに、自分は全体、今何を言ったのか。それこそ本当に爆破されかねないではないか。 少なくとも、ルイズが気を悪くすることは必至だった。それが何より、大分に気が咎める。爆発がどうのこうの以前に、いたずらに他人の泣き所を中傷することは、それが例え意図的なものでなくとも、一般論としてリキエルの望むところではなかった。 「ないわ」 返答は存外に早く、そしてどこか鋭さを秘めていた。怒りといった類の気配はないが、耳朶を打つその声は、何故かリキエルを少し不安定にした。眩暈にも似た感触をこめかみのあたりに覚えながら、リキエルはノロノロと顔を上げる。 ルイズは手を止めていて、リキエルに視線を向けていた。粗方怒りは発散し終えていたらしく、仏頂面ながら、理性的な声音で後を紡いだ。 「悔しいことならいっぱい、いくらでもあるわよ。でも、そんなときは家のことを考えるの。私の『誇り』でもある、ヴァリエールの『血統』のことをね。平民のあんたに言ってもわからないでしょうけど」 「血統……」 「ヴァリエールの名に恥じない立派なメイジになる。例え苦しくても、その目標、今の私の生きる目的がある限り、諦めようなんて考え、起きっこないわ」 当たり前のことを言うようにルイズは言った。事実当たり前なのだろう。その顔に、一切の躊躇や負い目はない。自分の言葉に陶酔するような、薄っぺらな気色もない。当然を当然として実践してきた厚みのある、思い切っている人間の瞳をしていた。 リキエルは何度か、その瞳に出会ったことがある。 テレビの向こう側で、街頭のインタビューに答える同年代の若者。あまり話さなかったが、一週間ほど一緒に働いたバイト仲間。比較的長続きしたバイト先の喫茶店で、毎日来るのに金欠でコーヒーしか頼まない中年の女性。彼らが、確かにそんな目をしていた。皆が皆、前を向いて生きていた。 「……あとはオレがやる。多分だが、もうすぐ昼食なんだろう?」 先ほどのように、気づけば口をつついてそんな言葉が出ていた。言いながら、箒を受け取るために手を差し出す。こちらは意識的な動きだった。 「へ? 何よいきなり。まだそんな時間じゃないわよ」 言われるまま箒を手渡しながら、しかしルイズは訝しげにリキエルをじろじろ見た。脈絡もなしに、しかも面倒な仕事を一手に引き受けるなどと言われれば、奇妙に思い勘繰ってしまうのも、当然といえば当然である。 暫し沈黙したあと、リキエルは微妙に眉をしかめながら言った。 「窓ガラス運んだりするような力仕事がお前にできるか? それか、男のオレでも苦労しそうな机をその細腕でか? そうは見えないんだがな。それに、せっかく着替えたってのにまた汚れたいのか? どうせ長くはかからないんだ、オレ一人で事足りる」 「…………じゃあ、やっときなさいよ? さぼったりしたら承知しないからね」 ルイズはまだ浮かない顔をしているが、早口気味にリキエルが言ったことにも頷けたので、念を押しながらも教室を出て行く素振りを見せる。 階段を上るルイズに、今度はリキエルが背を向け、無言で手を動かす。バサバサと振り回すようにルイズが掃いた床は、むしろ塵が飛び散っていて余計に掃き難くなっていたが、リキエルはそのことにも何も言わない。 「……」 教室の扉に手をかけたあたりで、ルイズはなんの気なしに振り向いた。そこから見えるリキエルの背は心なしか、単なる遠近の問題以上に小さくなったように見えたが、気にするほどのことでもないと、ルイズは少し早足で教室を出て行った。 乾いた大きな音を教室に響かせる扉の音にも反応せず、リキエルはひたすらに手を動かし続けた。 ◆ ◆ ◆ 「いあ~、あ~……あ痛たッ!」 トリステイン魔法学院、本塔最上階にある学院長室。 そこから望める雄大な自然を眺望しながら、オスマン氏は鼻毛を抜いていた。時折うめき声を発して、その度に涙目で鼻を揉んだりしている。 「オールド・オスマン。そのように暇がおありなら、この書類にサインをお願いします」 オスマン氏の秘書、ミス・ロングビルが溜息混じりに言いながら羽ペンを振り、数枚の羊皮紙をオスマン氏に向けて飛ばす。 オスマン氏は鼻を鳴らし、肩越しに飛んできた紙をヒラヒラさせながら言った。 「どうせ、王室からきたものじゃ。中身もない紙切れじゃよ。破り捨てたところで同じようなもの、堅っ苦しいことは言いっこなしじゃよ、ミス。それと私の秘書を務めるからには、もう少しユーモアを持ちなさい……む!」 「どうかなさいましたか?」 先ほどまでとは少し違う、くぐもった感のあるうめき声に、こめかみを押さえて瞑目していたロングビルも少し眉根を寄せる。 何事かと思っていると、オスマン氏が少し興奮したように振り向いた。 「ミス! 珍しいことじゃよ、黒い鼻毛じゃ! もうすっかり白一色になったと思うとったんだが!」 「……」 ロングビルは、今度は深く溜息をついて眼鏡を外し、レンズを拭いてかけ直した。そして、こめかみを押さえなおす。いっときばかりそうしてから、また小さく溜息をつき、顔を上げた。 「オールド・オスマン。そのように暇がおありなら、この書類にサインをお願いします。書類の束で、溺れたくはないでしょう?」 今までの不毛な流れをなかったものとするためか、ロングビルは同じことを繰り返す。申し訳程度ながら冗談も織り交ぜ、ついでに、上級の部類の笑顔もくれてやった。 オスマン氏は怪訝そうな顔をした。 「ミス、何を言っとるのかね? 人は紙では溺れん。しかもそれは王室からのものではないか。茶化さず、もっと真面目に仕事をしていただきたい」 「…………」 「ま、まあまあ落ち着きなさいミス。そんなに青筋を立てず、な? 悪かった悪かった」 能面のような顔になったロングビルにクルリと背を向けて、オスマン氏は椅子に座って小さくなった。その肩に、いつの間にやらロングビルの机の下に潜んでいたらしい、白いハツカネズミが這い上がっていく。 「おおモートソグニル。気を許せる友達はお前だけじゃ。ナッツでも食うか? ん? 誰かさんは行き遅れとるせいか気が荒くてな。老体の話し相手もしてくれん」 ロングビルの眉が左右同時にピクリと跳ね、能面がボロボロと崩れ始める。 オスマン氏は呑気にハツカネズミとのヒソヒソ話に鼻、もとい華を咲かせ続ける。聞こえよがしなのは勿論、ロングビルをからかってやろうという意図あってのことだ。 オスマン氏の辞書は『反省』『自重』の項目が擦れて読めなくなっているらしかった。ので、何事も度が過ぎれば碌なことにはならないことを、オスマン氏はウッカリ忘れた。 「さて、報告じゃ……なるほど今日は純白か。しかしミス・ロングビルは黒に限る……そうは思わんかねモートソグ――ハッ!」 やりすぎた、とオスマン氏が思い、振り返ったときには大分遅かった。音もなく背後に立ったロングビルからは、あちらの世界の空気が立ち上っている。 オスマン氏を見下ろすロングビルの眼鏡がキラリと輝き、その奥の瞳はギュロォリと濁る。一睨みで、カブトムシくらいなら殺せそうだった。 「言わなくてもいいことを言った者は! 見なくてもいいものを見た者は!! この世に存在してはならないのですよッ!」 「いや、それは言いすぎでばふぁっ! 痛い痛い! つむじを的確に狙って拳骨ってきみ! 響く! 頭蓋に響くぞィってちょっと……蹴りはまずいよほんと、ほんとにィ!あだだだだ! ちょっ踵が! ピンがめり込む! わしって年寄りよ? じじいなんだけど!? それをぐォぼばばばっ! 連打に乱打は洒落にならんよミス! ごめん! 後生だから許して! イイィィイ痛たたたた!」 回し蹴りから続く見事な二枚蹴りをロングビルは繰り出し、椅子からオスマン氏を叩き落す。間発の後に脳天突きを三発ほど食らわせ、そこから流れるような動きで、鋭い連続蹴りへと移行した。 「女の敵! あんたは敵よ! 敵だ、敵だっ! この! このっ! セクハラ上司に物申すッ! 今日という今日はッ!」 ロングビルの剣幕は、収まる鞘をとうの昔に放っぽってしまったようで勢い衰えず、激しくなっていくきらいさえある。オスマン氏は切実に、自分の後任について考え始めた。 ロングビルの蹴りが、さらに鋭さを増しはじめたそのとき、オスマン氏にとって幸運なことに、鞘が向こうからやってきた。 「オールド・オスマン! 大変で――大丈夫ですか? な、何があったのですか? 捨てられる半歩手前の雑巾のようになって」 ノックもせずに学院長室の扉を開けたのは、最近研究がとみにはかどり、抜け毛の本数が六日ぶりに減少するなどでいささか上機嫌な、ミスタ・コルベールである。どういうわけか血相を変えて飛び込んできたコルベールだが、ボロクソになってうち捨てられたオスマン氏を目の当たりにし、ポカンとした表情で立ち尽くした。 「身体を若返らせるという画期的な魔法を、秘薬も使用せずに開発せんとした結果ですわ、ミスタ・コルベール。失敗にもめげず、オールド・オスマンは魔法の新たな境地を拓かんがため、幾度となく自らに魔法をかけ、奮闘なさったのです。メイジの鑑といえますわね」 そんなコルベールにロングビルが、眼鏡のつるにかかった卸したての絹のように肌理細やかな薄緑色の頭髪を、小指でちょいと払いながらニコリともせずに答えた。いったいどんな方法を使ったものか、何事もなかったかのように、大量の書類をやっつける仕事に戻っている。 コルベールは、そんな馬鹿な、と思ったが、ロングビルの言葉の端々に見え隠れする、察せ察せ察せ……、という声ならぬ声を肌で聞き取り、おおよその自体を飲み込んだ。 コルベールはやれやれといった風に首を振り、視線をボロクズ――オールド・オスマンに戻す。 「オールド・オスマン、お話があります。あ~、耳と口が残っているのなら問題ありませんね? 大変なことがわかったのです」 「問題なして……なかなかに外道じゃの、君。えーとなんじゃったか、ミスタ……コンスタンティン?」 首だけをもぞもぞと動かして、オスマン氏は恨みがましい目でコルベールを見上げる。 「コルベールです! なんだか響きのいい名前で間違えないで下さい! 実質が伴わなくて微妙に理不尽にミジメですぞ。まったく、そんなよことりもこれを見てください」 「んん? 『始祖ブリミルの使い魔たち』……か」 コルベールの差し出した古びた書物の背表紙を、オスマン氏は読み上げた。鼻の奥を、かびの臭いがツン、とついた。 ややあってからオスマン氏は目を細め、「ふむ」と頷くと背伸びをするように立ち上がった。マントについた埃を適当に払ってから、ロングビルに顔を向ける。 「ミス・ロングビル、ちょっといいかね?」 「なんでしょう」 「今朝の二年生の授業で、教室がひとつ吹っ飛んだそうじゃ。ちょろっと様子を見てきてくれんか? 酷いようなら人を呼ばねばならんしの。そうじゃ、できるようであれば、あなたの『錬金』で修繕してくれるとありがたいのう。安上がりじゃし? ほっほ」 「わかりましたわ。……その後は、お先に昼食をとっても?」 「昼休みには時間があるが、いいじゃろう。そうしなさい」 鷹揚に言ってオスマン氏は微笑み、髭を撫ぜる。 ロングビルも自然な微笑を返し、軽く頭を下げ、細やかな足配りで学院長室を後にした。 さきの狂態がまるで嘘だった。髪の長き云々の手本も手本である。 オトナの女性ロングビルを、口の上をデレンと伸ばした顔で見送ったオスマン氏は、ふうっ、と息をつき、コルベールに向き直った。 「うまく空気を読んでくれるのう、惚れそうじゃ。なんつってな……で、コルベール君、そのように古さとカビと胡散さで臭くなった書物などひっぱり出して、どうしたというのかね?」 飄然とした態度を崩さず、しかし今はどこか超然としているようにも見えるオスマン氏は、ゆるゆるとした口調でコルベールを促した。その声でしばしの間忘れていた興奮をコルベールは思い出し、それを隠しもせずに声を張り上げる。 「はい、そのことです! このページとそれから、これ……をご覧下さい!」 コルベールは『始祖ブリミルの使い魔たち』の中ほどを開き、そこに挟まっていた一枚の紙片を取り出して、古書と合わせてオスマン氏に手渡した。 「ほほゥ……これはこれは」 手渡された紙片をカサカサと広げたオスマン氏は、どこか面白がるような、感嘆ともとれる吐息をこぼした。 「昨日の使い魔召喚の儀式で、一人の生徒が平民の青年を召喚しました。その手の甲に刻まれたルーンをスケッチしたものがこれです。このページの、伝説の使い魔『ガンダールヴ』のものと酷似している! いや、寸分と違わないッ!」 「そのようじゃな。……コルベール君」 口角泡を飛ばすコルベールに顔をしかめながらオスマン氏は頷き、若干の厳しさをはらんだ眼差しを、改めて紙片へと注ぐ。 「昼食は、大変遺憾ながら後回しになりそうじゃな?」 そう言って、オスマン氏はゆるりと自らの椅子に腰掛け、さきほどのように鼻毛を抜き始めた。どれだけ引き抜いても、もう黒い毛は見つからなかった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/868.html
昼食が終わり、トリッシュは一人中庭で椅子に座り紅茶を啜っていた。マリコルヌは今はいない。 モンモランシーと一緒に部屋に引き篭もるギーシュを呼びに行った為だ。 昼からの授業はなく、呼び出されたばかりの使い魔たちと親睦を深める時間に当てられている。 これもメイジとしての教育の一端なのだろう。 周りを見ると、猫のような植物に何かで打ち抜かれる者、溶かされて消えていく主人を笑う人型の生物、 ラジコン型の使い魔と追いかけっこをする者、背中を剥がされ死んでいく者など、午後の暖かな日差しが射す中庭で それぞれが使い魔たちと楽しそうに遊んでいる。 「トリッシュ、お待たせ」 「や、やあ。コンニチワ」 マリコルヌとややぎこちないギーシュが手を振りながらトリッシュの座るテーブルへとやってきた。 目の前に座ったギーシュの頬が真っ赤に腫れていることにトリッシュは気付きなんとなく聞いてみた。 「アンタ、なんで顔が腫れてんの?」 「ああ…これはだね……」 ギーシュは言い辛そうに口をモゴモゴと動かす。実際に喋り辛そうだが理由は他にあるようだ。 それに一緒に迎えに行ったはずのモンモランシーがいないことにトリッシュは気付いた。 「二股がバレたんでモンモランシーと、もう一人の子に殴られたんだよ」 「マ、マリコルヌ!アレは違うんだよ!そう!ケティが勝手に勘違いして……」 マリコルヌが代わりに答え、ギーシュがしどろもどろに言い訳する。 「サイテー。人間のクズだわ」 冷ややかな視線と共にトリッシュは冷たく言い放ち、それを聞いたギーシュは崩れるようにテーブルに突っ伏し、 ブツブツと何かを囁く。良く見ると肩を震わせ泣いているようだ。 「僕の…見せ場が……フラグが…………うう…」 トリッシュとマリコルヌは余りに哀れなその姿を見て、ギーシュをそっとしておいた。 「申し訳ございません!」 少し離れた席で黒髪のメイドが桃髪の少女に謝っていた。 「またあの桃髪か…怒られてるメイドってシェスタ?って人じゃないの?」 「シエスタだよ。いい加減に人の名前覚えようよ。ちなみに怒ってるほうがルイズね」 マリコルヌのツッコミを無視して、トリッシュは怒鳴り散らすルイズと謝り続けるシエスタを見る。 シエスタがなにをしたかは知らないが、ルイズの叱責は段々とエスカレートしていった。 それを見かねたルイズの使い魔(名前はマリコルヌも知らない)が二人の間に入って止めようとするも 股間を蹴られて撃沈する。 「あの使い魔もアンタも!貴族に対する礼儀ってものを知らないようね!!」 「申し訳ございません!何卒お許しを!」 ルイズは“生意気にも貴族と同じ席についてた!”や“私を無視した!”など、叱責の殆どがシエスタではなく 誰かの使い魔に対するものだった。要するに八つ当たりでシエスタがイジメられているのだと、トリッシュは理解した。 「アンタ、風邪っぴきと親しいみたいだけど色目でも使ったの?」 「そのようなことは……ございません」 「本当に~?そうねアンタの髪ってカラスみたいな汚らしい色してるもの。出来る訳ないわよね」 ルイズが言った言葉に、頭を下げて怯えていたシエスタの顔に怒りとも悔しさともとれる表情が現れた。 漸く怒りが収まったのかルイズはシエスタの表情に気付かずに、自慢とする桃色がかかった金髪を掻き揚げて 跪いたシエスタを見下ろし立ち去ろうとする。 しかし、ルイズの行く手に一人のメイドが立ち塞がった。 「アンタ、ちょっと待ちなさいよ」 今まで様子を見ていたトリッシュだった。 目の前に立ち塞がったトリッシュを見るもそれを無視してルイズは、股間を押さえ悶絶している使い魔を 蹴飛ばして起こすと今度その使い魔を罵倒し始めた。 「アンタ聞いてんの?」 トリッシュが問いかけるが、ルイズは無視して言い訳する使い魔の股間に蹴りを入れ、またも悶絶させる。 ルイズの肩を掴んで振り向かせよう手を伸ばすと、シエスタがトリッシュの手にしがみつき、 懇願する眼でトリッシュを抑える。 「シエスタ。アンタあの女になにやったの?」 「え…?、その、紅茶を……」 トリッシュがテーブルを見る。テーブルにはケーキとティーカップが置かれ、ティーカップから僅かだが 紅茶が零れていた。これをルイズは怒ったのだろう。 「判ったわ。アンタは離れてて」 困惑するシエスタを引き離しトリッシュはティーカップを手に取ると、使い魔を罵倒するルイズの頭に向けて、 その中身をブチ撒けた。 「うきゃ!あちちちち!!ちょっといきなりなにするのよ!!ヤケドしたら如何するつもり!!!」 「ワザとやったんじゃね~わ。寛大なお貴族様なら許してくれるでしょ?」 いきなり紅茶をかけられたルイズは当然のように怒るが、トリッシュは悪気がなさそうな顔で言い訳をする。 その顔を見て更にルイズは怒り出した。 「アアア、アンタ、貴族に対する、れれ、礼儀ってモノを、しし知らないようね」 「知ったことじゃね~わよ。なんで私がアンタに『敬意』を払わなきゃいけね~わけ?」 沸騰したヤカンのように顔を真っ赤にしたルイズがトリッシュを睨む。トリッシュもその視線を真っ向から受け止める。 「れれ礼儀を知らないって言うなら、わわ私が教えてあげるわ!けけけ決闘よ!!」 「ちょ!ちょっと待ってくれ!」 今まで傍観していたマリコルヌがルイズを止めるが、時、既に遅くルイズは『ヴェストリの広場』で待つと 言い残し足早に立ち去り、その後を回復した使い魔が追いかけていった。 「マズイよトリッシュ!いくらルイズが『ゼロ』って言ってもメイジなんだ!僕も一緒に謝るから許してもらおうよ!」 必死に説得するマリコルヌを見てトリッシュは首を振る。 「だったら、僕が決闘するよ!使い魔の不始末は主人の不始末でもあるんだ!」 今度は自分が戦うと言い出したマリコルヌの肩に手を置いて、トリッシュは澄んだ瞳で見つめる。 「それはできないわ。私が売ったケンカなんだから」 尚も食い下がるマリコルヌを放って、トリッシュはシエスタに向き直る。シエスタは怯えた表情を見せ、 マリコルヌと同じくトリッシュを止めようと口を開きかけるが、トリッシュはそんなシエスタに微笑みかけ、 それを見たシエスタは思わず口を閉ざしてしまった。 「シエスタ。お願いがあるんだけど」 「は、はひ?あ…なんでしょうか?!」 「着替えとお風呂を用意しておいて」 そう言って困惑するシエスタとマリコルヌを残して、トリッシュはルイズの待つ『ヴェストリの広場』に向かった。 「どうしよどうしよ……ギーシュ!君も止めてよ!!」 未だにテーブルに突っ伏したギーシュに頼むも、心ここに在らずと言った感じで何かを囁いていた。 「ふふふ…香水の壜さ…これを拾えば……フラグが……うう…」 妄想に耽るギーシュをそっとしておいて、マリコルヌはトリッシュの後を追いかけていった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/623.html
新世界の使い魔-1
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1602.html
第五話(15) 恋人の資格 「助太刀するぞ、マリコルヌ!」 FFが指で銃の形を構える。 「いいや、手を出さないでくれ!これはルイズの誇りをかけた決闘なんだッ!僕一人でやる!」 それをマリコルヌは断ったが、対するワルドは苦笑する。 「馬鹿が、貴様のような肥満体に何ができる。手伝ってもらえばよかったものを…。 僕は実力の四分の一も出す必要がないと踏んでいるね。さあ、かかってこいよ!」 ワルドは余裕綽々に挑発する。 (先程肥満体が言っていた、『ルイズはまだ初めてを失っていない』発言もどうせはったりだろう。 もし本当だとしても、肥満体の息の根を止めてしまえば真相は闇の中だ。 ルイズはついてこざるを得なくなる。そして二度目をしてしまえばいいのだ。 二度目なら二度目でいいし、その二度目が初めてでも、それが終わった時点では初めては既に失ったことになる。 結局ルイズは僕のものだ。誰にも渡さない。例えどんな手を使っても…。) ワルドはマリコルヌの発言中も常に頭を働かせていた。 「エアカッター!」 マリコルヌが先手を決める。 「フフフ、やはりその程度だな。貧弱ゥ貧弱ゥゥゥゥ。これでもう終わりだ、ライトニング・クラウドッ!僕の手にかかって死ねることを光栄に思え!」 「な、何だってぇ。もうすでに唱え終えていた。僕が話している間に。あの短時間で。ごめんルイズ、役不足だったよ。」 「マリコルヌゥゥゥーーーッ!」 ルイズの叫びが木霊した。 「大丈夫だルイズ。よく見てみろ。」 「へ?」 FFの言葉に目を背けていたルイズがマリコルヌのほうを見る。 すると焼け焦げたFF下っ端がいる。マリコルヌ自身、死んだと思っていた自分が生きていることに驚く。 そして、現状を把握し、FFに感謝する。 「ありがとう、FF。」 「一人で戦う…っていうのは、ある程度実力のあるヤツがいう言葉だ。例え1%でも勝率があるヤツがなぁ。なんてったって敵にやられちゃあお仕舞いだからよぉ。 …ここは協力してルイズの尊厳をとり戻すところなんじゃあないのか?任務は遂行する。ルイズの尊厳は取り戻す。 両方やらなくちゃあならないのが仲間の辛いところだ。」 「わかったよFF。僕に協力してくれ、FF、ミス・タバサ。」 FFが指を構え、タバサは無言で頷く。 「第二ラウンドだ、ワルド子爵。」 「全員まとめて家畜の餌にしてやるよ。勿論とことんいたぶってなぁ!ユビキタス・デル・ウィンデ。」 ワルドが三体に分裂する。偏在だ。 「一人一体相手だ。感謝したまえ。相当のハンデだぞ。フフフフ…。」 偏在を含めた3体のワルドがそれぞれの対象に向かって攻撃を仕掛けていく。そしてそれに各々が対抗していく形になっていった。 タバサは完全に押されてはいるものの、何とか耐えている。 FFはダメージをそんなに恐れる必要がないため、ある程度攻めにまわることはできるようだ。しかし大抵防がれてしまう。その上ライトニング・クラウドには細心の注意が必要だ。食らった時点であの世逝き決定だからだ。 マリコルヌは本当にいたぶられている。少しずつエア・ニードルの風の刃で切り刻まれ、服が少しずつ、だが確実に真っ赤に染まっていく。 「私も参戦しよう!」 先程まで展開についていけず、立ち尽くしていたウェールズが杖を拾い、マリコルヌをいたぶっていたワルドに向かう。 「邪魔だ、引っ込んでいろ!あとで楽に始末してやる!」 その間でさえも呪文を唱え、エア・カッターでウェールズの耳を削ぎ落とす。 しかしウェールズは苦悶の表情を浮かべながらも向かってくる。 「ほう、意外と根性があるようだな。だが、これでどうだ?」 今度は杖を持っているほうの腕を切り落とす。だがウェールズは腕を失っても向かってくる。 「興ざめだ。しつこい男は嫌われるぞ。退場していろ。」 遂に飽きてきたワルドが、ウェールズを蹴り倒す。その間も何事もなかったようにマリコルヌをいたぶり続けている。 「じゃあまずは肥満体から片付けてやろう。…ライトニング・クラウドッ!」 「フライ!」 「何ィッ!?」 ルイズがフライを唱えた。ワルドはそのことに驚くが、間髪いれず爆発が起こる。 ワルド本体が巻き込まれ、残りの偏在達も揺らいで消えた。 「ルイズ、どうして邪魔をするんだ。夫の邪魔をする妻が何処にいる!君の母親のヴァリエール公爵夫人を見習えッ! 攻撃するならあの汚らしい阿呆どもじゃあないか。」 「貴方は私の知っている昔のワルドじゃあないわ。これ以上、貴方に私の大切な人が傷付けられるのを見ていたくないっ!」 ルイズは涙で真っ赤に晴らした目頭でワルドをキッと睨む。 「君の知っている僕か…。僕は昔から変わらないよ。君のことを誰にも取られたくない。 君は僕だけを見ていればいいんだ。僕に従っていれば何も間違いなんてない! 結婚ももうすんだじゃあないか。強がるなよ。一緒に世界をとるんだ。レコン・キスタは過程に過ぎない。さあ。…さあ!」 ワルドはおぞましい笑い声をあげながら、立ち上がる。 「ワルド…、もう貴方に愛しい感情なんか砂漠の砂一粒もないわ。 牢獄の中で詫びなさい。」 「フフフ、牢獄の中だとぉ。姫殿下は僕にそんなことはしないさ。寧ろ牢獄に入るのは君のお友達のほうだ。 姫殿下に伝えておこう。彼らは反逆者だとね。フフフフ、ハハフハ、フハハハハハハ!ッ……。」 邪悪な笑い声を上げたワルドが急に黙った。そして次の瞬間別の言葉が紡がれる。 「ハ~レルヤ~♪」 ルイズたちは何が起こったのか全くわからずに立ち止まっているが、FFにだけは確かにそいつは見えていた。 「君ノ記憶ヲ見セテ貰ッタヨ。君ハクロムウェルカラノ『虚無ヲ連レテコイ』トイウ任務ヲ、放棄スルツモリダッタヨウダネ。 下ラナイ野心ダ。後デ君ノ記憶ハ一部預カラセテモラウヨ。ソシテアノ『ピンク髪』ガ虚無トイウワケカ。」 FFが絶対に忘れるわけのないその姿。 「…お、お前は…何故此処に!?」 FFの驚いた声に何事かと思うルイズ。しかし何も見えない。 また、なぜかウェールズが立ち上がりマリコルヌのほうに向かっていく。 しかし、タバサは今までに鍛えられた直感で何かヤバイものを感じて咄嗟に動いた。 「危ない。」 そう言ってマリコルヌを突き飛ばした瞬間、ウェールズの体が破裂し、タバサにウェールズの骨が突き刺さる。 「ウェールズノ始末ハ完了シタ。フーケ、オマエノ記憶カラ『アルビオンノ虚無』ハ判明シタカラナ。アルビオンノ王族ハモウ必要ナイ。 タバサガ巻キ込マレテシマウノハ予想外ダッタ。邪魔ナデブヲフッ飛バソウト思ッテタンダガナ。」 「大丈夫かい、ミス・タバサ。一体なんだったんだ。FF、早く治療を!」 マリコルヌは叫ぶがFFはある方向を睨みつけたまま動かない。 目の前でウェールズが破裂し、肉塊になったのを見て、ルイズは腰を抜かして震えた。失禁もしている。 「フーケ、邪魔ニナルヤツラヲ始末スルノガ君ノ役目ノ筈ダロウ。ドウシテ其方側ニツイテイル。 早クヤレヨ。私ハピンク髪ノ虚無ノDISCニヨウガアル。」 そいつはルイズに向かって近づいてきている。それをとめようとFFはFF弾を放つ。 「何故此処にいると聞いているんだァーーー!喰らえ!ホワイト・スネイク!」 「アノ技ハッ!オマエハモシカシテフー・ファイターズ!何故此処ニイルンダ。 因縁ハ総テ置イテキタハズ。コレモ神カラノ試練ダトイウノカ。」 ホワイトスネイクは何事もなかったように弾を腕ではじく。 そしてルイズにその腕が迫る。 「ルイズゥーー!よけるんだァーーッ!」 「へ?何?何なの?」 ホワイトスネイクが見えないルイズは腰を抜かしたまま戸惑っている。 ホワイトスネイクの腕が、ルイズまであと1サントのところまで来たとき、マリコルヌが飛び込んできた。 「よくわからないけど、ルイズは僕が守る!」 ルイズのかわりに魔法の才能『風のDISC』を抜かれてしまうマリコルヌ。 「チィ。クズノDISCカ。マアイイ、ソノママ『虚無ノDISC』モ貰ウゾ!!!」 「いいや、渡さない。覚悟しろホワイトスネイク!」 ルイズに気をとられていたホワイトスネイクは、そのすぐ後ろにまでFF弾が迫っていることに気が付いていなかった。 そのまま直撃を許してしまうホワイトスネイク。その隙に、先程の戦闘で皹が入っていた壁を壊し、シルフィードが入ってきた。 「きゅいきゅいーーっ!」 シルフィードは全員を背中に乗っけると、全速力で壁の穴から逃げていった。 「イイダロウ、マダ時間ハアル。先ニアルビオンノ『虚無ノDISC』ヲ戴コウ。」 ホワイトスネイクは本体に戻っていった。 その頃シルフィードの上では…。 タバサがFFに治療されていた。あのままアルビオンに残るのは危ないので、一行はラ・ロシェールに向かうことにしたのである。 「マリコルヌ、魔法を使ってみてくれないか?」 「別にいいけど。何故?」 急に変なことを聞くFFを不思議に思いながらも、マリコルヌはフライを使う。何も起こらない。レビテーションを使う。何も起こらない。 「???」 疑問が沸き起こる一行。それに対しFFが口を開く。 「恐らくあの時、みんなには見えないやつ(スタンドということは伏せておく)は、マリコルヌの魔法の才能を抜いていったんだ。 だからマリコルヌは魔法が使えなくなった。そしてそいつはルイズの才能を狙っているみたいなんだ。」 突然のことに一行は理解できない。 「どうしてそいつは私を狙うのよ。恥ずかしいけど私には魔法の才能なんてないし…。」 ルイズが話を切り出した。 「いいや、それは違う。私もワルドが言ったように虚無の系統なんだと思う。 そいつも虚無を狙っているといっていた。それに本当に才能がないのなら、マリコルヌのように何も起こらないはずだ。爆発も何も、な…。」 なんだかんだで納得はしたようだ。そしてそいつの名前と能力だけを教える。 FFはフーケの体をのっとっているのでこの世界の常識はわかっている。ここはスタンドではなく、『亜人』や『先住魔法』と説明したほうが通じやすい。 FFの的を得た説明は、とてもわかりやすかったようだ。話は一段落する。 ルイズは内心へこんでいるが、以前マリコルヌに言われたことを思い出し、無理して笑って話を切り出す。 「ねぇマリコルヌ、あなたワルドとの闘いのとき言ってたけど、重婚って、何であんたと結婚すること確定なのよ。」 どちらかというと引き攣った笑いだ。途中、以前マリコルヌに言われたことで立ち直ろうとしていることに恥ずかしくなったために、このような話題になったのだ。 ラ・ロシェールについた一行は、タバサ、マリコルヌを治療し、翌日、アンリエッタのところに出向いていった。 「ルイズ、ご苦労様でした。それに結婚おめでとう。ワルド子爵も喜んでいたでしょう。」 「へ、ちょ、姫様違いま…」 「二人は愛し合っているんですもの。羨ましいわ。重婚なんて永遠にありえないのでしょうね。」 「姫様!ワルドは裏切り者です!レコン・キスタの一員なんです。そんな人とは結婚しません!」 「何を言っているのルイズ。ワルド子爵は裏切り者なんかじゃあないわ。きっと貴方の勘違いよ。 重婚なんて考えていませんよね。貴女たちの結婚はわたくし自らも認めているのですよ。」 アンリエッタの優しかった笑顔が、急におぞましいものにかわっていったのをルイズは感じた。 「ひ、姫様……。」 そういってルイズは退出し、泣いた。何か変わってしまった姫様のことを。 でもそれに口を出せない自分のことを。ルイズはここで涙を総て流してしまいたかった。 みんなの前では笑っていられるように…。 ゼロの奇妙な使い魔~フー・ファイターズ、使い魔のことを呼ぶならそう呼べ~ [第二部 アルビオン、その誇り高き精神] 完 エピローグ アンリエッタは暗い部屋の中に入っていった。 「リッシュモン高等法院長、そこにいますか?」 「何でしょう姫殿下。」 そこには強欲そうな男が一人、余裕の表情で窓から外を眺めていた。 「戦争の準備は整っていますか?」 「もちろん、着実に進んでおります。」 二人はなにやら密談をしているようだった。 「わたくしの邪魔になるものは…みな……。」 「総討ち死に…ですな。」 「わかっているのならいいのです。金額に見合った働きを期待していますよ。」 「当然です。期待は決して裏切りません。」 それだけ確認すると、アンリエッタは部屋を去っていく。 そののち、アンリエッタはゲルマニア皇帝との婚約を解消し、王位につくのであった。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/886.html
爆発の罰として教室を一人で片付けたルイズは昼食を取る為、食堂に居た (最初は全部ディアボロにやらせようとしたが、探しても見つからないので断念した 爆発で吹っ飛んだと気付いたのは掃除が終わった後だ) 隣にはディアボロが居る ある事の為に食堂に来る前に召喚しておいたのだ 「小娘、何だこれは」 「アンタの食事よ」 ディアボロの目の前にはパンにシチューが並んでいる まあ、人並みな食事といってよいだろう、周りに目を向けなければの話だが 周りには比べるのが愚かしくなる程、豪華な料理が所狭しと配されている この差にはあからさまな区別の意図が見て取れた そう、ルイズは食事に託けて、教室を一人で片付けさせられた憂さ晴らしを兼ねて上下関係を教育しようとしているのだ 「このアルヴィーズ食堂で食事出来るだけでも結構大変なことなのよ、他の使い魔たちは全部外で食べてるんだから 感謝しなさいよね、もしどうしてももう少しいいものが食べたいって言うんなら食べさせたあげないことも無いわよ 貴族の使い魔にふさわしい態度を取るって言うんならね、まず呼び方ね、小娘じゃなくって御主人様………」 ルイズの使い魔の在るべき態度についての演説が続く 一方、ディアボロはルイズの話を無視して食べ始めている (もちろん周りの料理にも手を出している) 唐突に隣から聞こえた何かがぶつかる様な音にルイズは振り向いた ディアボロが白目を剥いて泡を吹きながらテーブルに突っ伏している はて、何が起きたのだろうか? ルイズが疑問に思っていると厨房の方から一人のメイドが小走りに此方にやって来た 表情から察するにかなり焦っている様だ 「失礼致します、ミス・ヴァリエール」 「どうしたの?」 「ミス・ヴァリエールが此方に運ぶように仰られましたシチューなのですが、 あれは鼠退治用の毒餌でございまして…」 ああ、そういうことだったのかと納得の表情を浮かべる そして、笑みを浮かべながらメイドに皿を下げる様に告げ、こうも言う 「大丈夫よ、何も問題はないわ」 ■今回のボスの死因 殺鼠剤の入ったシチューを口にして中毒死
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1957.html
油断した、やはりあの鏡はスタンド攻撃だったか… 確かにさっきまで僕はイタリアのアジトにいたはずだが今いる場所はどうだ。 どちらが上か下かも分からない、いやそういった概念が無い場所と言った方がいいだろうか。 ともかく現在僕は、落下し続けている最中なのだ。それだけはハッキリと分かる。 次第に目の前が明るくなっていった空間が、意識を失う寸前に見た最後の光景だった。 なんだろう、笑い声が聞こえる。ここはどこだ?イタリアからそう離れていなければいいんだが… ゆっくりと、全神経を集中して上半身を起こしてみる。スタンド使いが近くに潜んでいるやもしれない。 細心の注意を払う…必要は無かった。取り囲む少年少女の傍には必ずとしてスタンド像が見える。 全員がスタンド使いとは…“一手”、遅れたか。 ここから一旦距離を取らなくては。出来るだけ遠くがいい。 しかし朦朧とした意識の中次に聞こえてきた言葉は、すぐ傍にいた(多数のスタンドに気を取られて気づけなかった) ピンク色の髪の少女の口から発せられた。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」 油断とは続くものだ。次の瞬間その少女は何の躊躇いも無く唇を合わせてきたのだ。 それがスタンド発動の条件か。 「くッ、身体が……燃えるように熱いッ……」 同時に左手の甲に記号が刻まれるのを目に焼き付けながら、再度気を失ってしまった。 くそ…“二手”遅れた… 次に目を覚ました時いた場所はやはりいつもの場所では無かった。夢などと都合の良いようにはいかないのは充分承知。 今はこれまでの経験を充分に役立てる事が先決だ。決まっている、まずは“逃げる”だ。 「あ、目を覚まされたんですね!」 くッ、次から次へと敵が現れる。次は何のスタンドがでてくるんだ一体。 ドアを開け入ってきたのは一人のメイド。歳は…僕に近いようだ。 「お体は大丈夫ですか?どこか具合の悪いところはありませんか?」 やけに悪意を感じられないメイドだ。しかし注意を怠ってはならない。 予想にもしないスタンド攻撃が無いとは言い切れない。 「ここはどこだ?」 「ここはトリステイン魔法学院です。あ、申し遅れました。私、この学院で小間使いをさせてもらっています、シエスタと申します。 …学院中大騒ぎでしたよ。ミス・ヴァリエールが平民を使い魔にした、っていう。」 なるほど、あのスタンド攻撃がそれか。…人一人を使い魔にするだと?馬鹿馬鹿しいスタンドだ。 発動条件はあれど制限が見当たらないあたり、非常に強力なスタンドであることは間違いないな。 それにしてもトリステイン魔法学院?・・・ふざけた名前だ。どこかの宗教団体と関係するものだろうか? だとしたら厄介だな。国を相手にすることに繋がるかもしれない。 少なくともイタリアでは無いわけか、ここは。 ファミリーはミスタとトリッシュに参謀を任せてあるから一通りは普段通りに動いているはず。 だが急に行方を眩ました僕を探す為奔走しようとしているのかもしれない。 希望は“僕を探さない”だが、ミスタ達の性格を察すればそれは無駄だろう。 しかし闇雲な行動が危険であることはあの二人もこれまでの経験から承知のはず。 とにかく今は早くイタリアに戻る方法を見つけなければ。 鏡台に突っ伏せているさっきの女を見つけた。通常スタンドは本体を叩けば消えるはず…しかしだ。 1.“使い魔”とされた僕が“主人”であるこの女に手を出した時に危険が及ぶのだとしたら。 2.無事“主人”を倒した後も“使い魔”の属性が消えず、例えば決められた領域から外に出られなくなる、等の移動制限がかけられていたら。 以上二点が最大の疑問だ。不用意に手を出すべきではない。 そしてもう一つ疑問が。 「このベッドは彼女のものだろう。何故彼女はあそこで寝ているんだ?」 「ミス・ヴァリエールは一晩中寝ないであなたを看病していたんですよ。 きっと疲れているんです。」 …理解できない。他人を“使い魔”にするスタンドから見れば本体の性格は恐らく支配欲の塊。 その性格があってこそあのスタンド攻撃が成立するはずだ。 ならば何故僕に対して手厚く世話をする必要がある? しばらくして目を覚まし、むくりと起き上がった少女はこちらに詰め寄り、開口一番にこう言った。 「ま、ま、まさか、へ、平民の人間なんかが使い魔になるなんて思いもしなかったけど こ、これも何かの縁だと思って諦めるわ。今日、この時よりあなたは このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔なんだから。よろしくお願いね。」 「僕は敬意を払いたくもない自分より年下の女の子の使い魔なんかになりたくないね。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。」 「名前を呼ぶならルイズでいいわ。でも使い魔の願いなんてご主人様であるこの私が聞けると思う? こっちだってまさか人間が召喚されるなんて思ってもみなかったわよ! もうどうしようもないことなんだからあなたも受け入れなさいよ、もう!! だいたいあなた歳は幾つなのよ!?」 そこへシエスタが止めに入った。 「ミス・ヴァリエール。そろそろ朝食の時間です。用意をした方がよろしいかと…」 「ああ~!もう、分かってるわよ。ええっと、あなた。名前はなんて言うの? ずっと“あなた”で呼ぶのもどうかと思うわ。名前を教えなさい。」 「……ジョルノ。ジョルノ・ジョバァーナだ。歳は15。」 「変わった名前ね。しかも私より1つ年下じゃない、敬語を使いなさい。そもそも年上である以前に私は貴族なのよ、平民。 まだあったわ、あなたは使い魔で私はご主人様。…3つも理由があるじゃない。」 僕より1年先に生まれておいて常識知らずとは頭が下がるね。 「じゃあまずは使い魔としての最初の仕事を与えるわ。ジョルノ、着替えさせて。」 「…お断りします。」 「言ってくれるじゃない。じゃああなたは他に使い魔としての能力を持ってるの? いいえ持っているわけないわよね。既に試してみたけどあなたには主の目となり耳となる能力も無いようだし、 主が必要とする秘薬を捜してくる能力も無ければ、主を守ることも出来そうに無いわね、だってあなたは平民ですもの。 だからあなたには使い魔としてとても簡単な仕事を与えてあげることにしたの。 掃除、洗濯、着替えがあなたに与えられた仕事よ。文句を言わずにさっさとしなさい。」 よくもここまで噛まずにスラスラと喋られるものだ。 しかし流石に僕でも…もう限界だッ…… 「…嫌だと言っているッ!」 「はぁ?これから誰があなたを養うのか分かってるの? あなたは使い魔の癖に何もせずタダ飯を喰らうつもり!?」 「これ以上君の理不尽な話を聞き続けるのは精神的に参るね。 どうしても言うことを聞かせたいのなら君のスタンドを使って思い通りにしてみればいいじゃないか。」 「何を訳のわからないことを…ああもう遅刻しちゃうじゃない! もう、今回だけは大目に見てあげるけど今日の夜を覚えておきなさい!誰が上で誰が下なのか再認識させてあげるわ!」 スタンドが分からない・・・?まさかそんな。いや、試してみる価値はある。 像をイメージする。天道虫をモチーフにした人型のクリーチャー、スタンド名:ゴールド・エクスペリエンスが目の前に現れる。 「これが見えないのですか?」 静かに佇み前だけを見据えるG・Eを指差して聞いてみる。 スタンド使いならばスタンドが見えるはず。 「何言ってるのよあなた。まだ意識が朦朧としてるんじゃないの? そうか、だからまだ使い魔としての認識が…」 「ゴールド・エクスペリエンス!花瓶をアヒルに変えろッ!」 命令と同時に降り落とされる腕は正確に彼女の傍にあった花瓶を殴りつけ、ドグシャアと音を残す。 花瓶は衝撃を受けて宙に舞う。 「きゃあああっ!あなた、人の物に何して……え?確かに花瓶は吹っ飛んだのにジョルノは一歩も動いてない…何故!?」 「ミ、ミス・ヴァリエール、かかか、花瓶が!」 ゆっくりと、花瓶は粘土細工のように形を変えていき、やがて絨毯の上を歩き回るアヒルそのものに変化した。 アヒルから目を離せない二人はどうやら、本当にスタンド使いでは無いようだ。 G・Eに部屋内の生命エネルギーを感知してもらっているが、欠片ほどのエネルギーも新しく発生しないし 彼女らのスタンドを出して身を護ろうとする動作すら行われない。 「こ、これ、なんていう魔法なの?生き物を“創り出す”魔法なんていままで見たことも聞いたことも無いわ…」